今の状況では翠蘭以外の犯人が思い浮かばない。ただ、一介の女官である翠蘭が潤王の暗殺を企むことなど考えにくいので、裏で糸を引いていた誰かがいると考えるのが自然だ。そして、その『誰か』とは翠蘭の主である桃妃と疑われるのも自然な流れだった。

(間違ってはいないはずよ)

 けれど、何かが引っかかる。

 ──我らは錬金術を用いて物事の真理を見極め、あらゆる世の不可解を解明し、また、世の不便を解決するのだ。

 天嶮学士であった父が生前によく門下生達に説いていた言葉を思い出す。

(何か見逃していることがないかしら?)

 玲燕はもう一度考える。けれど、どんなに考えても何も思いつかなかった。

「桃妃様は絶対に糸を引いていない。それは、間違いない」

 火鉢を挟んで向かいに座る天佑が、苦しげに呟く。

「なぜですか? 物事に『絶対』などありません。どうしてそう言い切れるのですか」

 何も答えずに眉を寄せる天佑を見て、玲燕は苛立ちを感じた。

(まただわ)

 以前にも、天佑が桃妃を庇ったとき、この苛立ちを感じた。