「状況証拠が揃いすぎています。酒器には毒が入っており、酒樽には毒がない。そして、その酒器を持っていたのは翠蘭であることは多くの人が目撃している。この事実に相違はありませんか?」
「ない。その通りだ」
「では、犯人は翠蘭とするのが自然です」

 天佑は数秒押し黙り、玲燕を見つめる。

「……玲燕は翠蘭が犯人だと思っているのか?」
「感情論を話しているのではありません。私は事実を述べているのです。翠蘭がこんなことをするはずがないと私も思いますが、この状況では誰がどう見ても犯人は翠蘭です」

 玲燕は口を噤み、あたりに静謐が訪れる。時折、火鉢からパチッという炭が弾ける音がした。

 窺い見た天佑の顔に失望のような色を感じ、玲燕は咄嗟に目を逸らした。まるで『天嶮学などこの程度のものか』と言われているような錯覚を覚える。

 視線の先では、火鉢の炭が赤く燃えていた。