声をかけられた梅妃はちらりと玲燕を見たが、何も言わずにすぐに視線を前に向け、目の前を通り過ぎる。横にいる女官が小馬鹿にしたようにくすっと笑った。

 玲燕は彼女たちの後ろ姿を見送る。

(相手にする価値もない、ということね)

 梅妃の先ほどの態度から、玲燕は彼女が自分を言葉を交わすに足らない相手だと思っているのを感じ取った。

(嫌な感じ……)

 ここ最近忘れていたが、役人達に報酬を踏み倒されて見下された日のことを思い出し、胸の内に苦いものが広がる。

「寒っ」

寒さにぶるりと身を震わせる。
 雪は先ほどより勢いを増して降り続いている。

「最近は暖かくなってきていたのになあ」

 季節外れの雪は、まだまだ止みそうにない。
 明日の朝には、一面が銀世界になるだろう。


 
 菊花殿に戻ると、門の前には宦官姿の天佑が立っていた。

「栄佑様。このように冷える中、こんなところでどうされました?」
「随分と遅かったではないか」

 天佑は玲燕の質問に答える代わりに不機嫌そうに眉を寄せ、玲燕の手を取る。その瞬間、先ほどよりももっと深く、眉間に皺を寄せた。