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 玲燕(レイエン)は馬車に揺られながら、目の前の男に目を移した。

 その男──天佑は眠っているようで、ひとつにまとめられて無造作に肩から前に流れる艶やかな黒髪は馬車の揺れに合わせて揺れていた。伏せた瞼の際(きわ)から伸びる睫毛は長く、その高い鼻梁のせいでできた影は頬に影を落としていた。

(都には美しい男がいるものね)

 玲燕は天佑を見てそう思った。
 玲燕が多くの時間を過ごした田舎の村では一度も見たことがないような、見目が整った男だ。涼やかな眼差しと凜とした雰囲気のせいか、どこか近寄りがたい雰囲気すら感じる。

 年の頃はまだ二十代半ばだろうか。この年齢で吏部侍郎の座にいるとなると、恐らく超難関の試験を相当若くして突破し、更にその中でも同期で一、二を争う超出世頭(スーパーエリート)のはずだ。
 じっと見つめていると、男の睫毛が揺れ、ゆっくりと目が開いた。視線が宙を漂うように揺れ、玲燕を捉える。

「ああ、済まないね。うたた寝をしてしまった」
「構わない。疲れているのだろう?」

 それを聞いた天佑は、形のよい口の端を上げた。

「きみの方が疲れているだろう? 私に遠慮なく休むとよい。動物達なら心配いらないよ。私からしっかりと面倒を見るようにと申し伝えたから」
「どうも」

 微笑みかけられて、玲燕はふいっと目を反らす。