玲燕はハッとして、声のほうを見る。そこには何人かの女性がいた。中央にいる一際華やかな襦裙に身を包んだ女性は、貂皮(てんひ)を羽織っている。貂皮は防寒用の毛皮の中でも特に高価で、高位貴族の女性が好んで使うものだ。
 高髻に結われた髪にはいくつもの簪が付いており、唇には鮮やかな紅が塗られていた。

(梅妃様だわ)

 梅妃の両側には、数人の侍女がいた。そのうちのふたりに見覚えがあり、玲燕はおやっと思う。玲燕を見つめ、意地悪そうに口の端を上げている。

(この人って確か……)

 算木を落とした際に足を引っかけてきた女官だ。いつか文句を言ってやろうと思っていたので間違いない。

「梅妃様が通るのです。道を空けなさい」

 女官のひとりが不愉快そうに顔をしかめる。先ほどと同じ声だった。
 玲燕ははっとして、慌てて回廊の端に寄ると頭を下げた。

「梅妃様。ご無沙汰しておりました」

 同じ妃という立場でも、先に入宮して実家の後ろ盾もある梅妃は玲燕より立場が強い。
 蓮佳殿と梅園殿は場所が近い。梅妃は後宮内のどこかに出かけて、戻ってきたところなのだろう。