「わからないわ。桃林殿の女官にうちの侍女が聞いたのだけど、季節の風邪を引いてしまたようだと。ただ、陛下の主宰する宴席で急にだったから、みんな驚いてしまって」
「へえ……」

 蓮妃の今の言い方からすると、宴席が始まったときは元気だったのに宴席中に急に体調を崩してしまったのだろう。
 風邪で体調が悪くなるのは仕方ないことだが、陛下が主宰する場であれば多少の体調不良は我慢して最後まで参加するはずだ。それを途中で退出するなど、よっぽど切羽詰まっていのたのだろう。

(毒かしら?)

 すぐにそんな想像が頭をよぎる。

「その日、桃妃様以外に体調を崩された方は?」
「いないわ。桃妃様だけよ。食事が運ばれてきたらすぐに、悪心を訴えて」
「食事が始まる前に体調を崩されたのですか?」
「そうよ」

 蓮妃が頷く。

(なら、毒ではない?)

 今の蓮妃の話が正確ならば、桃妃は食事に口を付ける前に体調を崩している。ならば、毒を盛られたというのは間違っている。

「本当にたくさんの事件が起きたのですね」
「ええ。お陰で、女官達も毎日の噂話は尽きなかったようよ」