「交換作業中に梅園殿に生えている植物の枝を折ってしまったようで。梅妃様がお怒りになり、『このような者が後宮の中を出入りすることを許すわけにはいかない』って大騒ぎよ。結局、代わり職人を手配し直すまで、その後の全ての交換作業が中止になったの」
「そんなことがあったのですか」

 玲燕は、この後宮に初めて来た日のことを思い出す。
 回廊で算木をなくして回廊の下まで探しに下りた玲燕に対し、鈴々は『偶然出会ったのが梅妃様でなくてよかった』と言っていた。もし草木を傷つけようものなら、激怒すると。

「工事の方は災難でしたね」
「引き連れられていくところをうちの侍女が目撃したのだけど、『最初から折れていた』と叫んでいたらしいわ」

 蓮妃はふうっと息を吐く。

(まあ、罪を逃れるためにはそう言うしかないわよね)

 鈴々は、以前後宮の草木を傷つけた女官は梅妃の怒りに触れて鞭打ちされたと言っていた。きっとその職人も、それ相応の罰を受けたのだろう。

(たかが草木くらい。踏みつけられても、より強くなってまた伸びてくるわよ)

 そう思ってしまうのは、玲燕が元々後宮とは縁遠い生活をしていたからだろうか。