「もちろん。酒が注がれたあと、陛下がそれを飲もうと口を近づけたの。ところが、その酒には毒が入っていると気付いた黄様がものすごい剣幕で駆け寄ってきて、陛下の杯を取り上げて池に放り投げてしまったの。皆、最初は黄様の無礼にびっくりしてしまったのだけど、黄様が『これは毒入りです』と仰って──」

 これも、玲燕が天佑から事前に聞いていた話と同じだ。
 翠蘭はその場で取り押さえられ、彼女が持っていたという酒器からは砒霜が検出された。

 蓮妃は肩を落とし、茶の水面を見つめる。

「信じられないわ。よりによって、桃妃様の侍女がこんなことするなんて。桃妃様はこのこと、事前にご存じだったのかしら──」

 蓮妃は桃妃のことを慕っていた。
 桃妃が事件に関連しているはずがないと信じる一方、状況的に桃妃付きの女官が毒を盛ったとしか思えない事実に歯がゆさを感じているようだ。

「その日、蓮妃様の目から見て違和感などはありませんでしたか?」

 玲燕は尋ねる。ほんの些細な違和感でも、実はそれが重大な鍵を握っていることもあるのだ。