どうりで一度後宮を去ったはずの元・妃がこうも簡単に後宮に戻って来られたわけだ。一体どんな言い訳を使ったのだろうと不思議だった。

「おかげさまでもう大丈夫でございます。ご心配をお掛けいたしました」

 玲燕は話を合わせ、にこりと微笑む。

「蓮妃様はお元気でしたか? 少し背が伸びられましたね」
「わかる? ありがとう。雪にもそう言われたの」

 雪とは、蓮妃付きの女官の名前だ。蓮妃は自分の頭頂部に手を当て、はにかむ。

「わたくしは元気。でも、菊妃様がいない間に色々と事件があってね──」

 蓮妃はそう言いながら涙ぐみ、袖口で顔を拭う。

「ここではなんですから、建物の中で話しませんか? 冷えてしまいます」

 回廊は開放廊下になっているので、とても冷える。田舎育ちで寒さに強い玲燕はともかく、まだ体が小さい蓮妃には辛いだろう。

「ええ、そうね。ここからだと私のいる蓮佳殿が近いから、いらっしゃらない?」
「はい、お邪魔します」
「やったぁ!」

 蓮妃は両手を口の前で合わせると、嬉しそうに笑った。
 


 蓮佳殿の一室に通されると、玲燕の前には茶器と粉食の菓子が用意された。