「今のは依頼料の前払いだ。俺の依頼を受けて解決すれば、成功報酬として残りも支払おう」
「前払い?」

 玲燕は怪訝な顔で天佑を見返す。

「ああ。なんなら、手付金として、先ほどの家賃とは別に今すぐに報酬の一部を支払ってもいい」

 天佑は懐に手を入れて小さな布袋を取り出すと、その布袋をそのまま玲燕に差し出した。玲燕は訝しげな顔をしつつもそれを受け取り、中を覗く。そして、驚いたように目を見開いた。

「こ、こんなにいいのか?」
「それはほんの一部だ。もし事件を解決してくれたなら、その百倍の報酬を支払おう」
「ひゃ、ひゃくばい!」

 狼狽えたような顔をした玲燕は、しっかりとその布袋を握りしめたまま何やら思案し始めた。「これだけあったら学舎を作って人を雇っても三十年は暮らせるな。教科書を作って、全員に無償配布しても──」などとブツブツを呟いている。

「どうだい? やらないか?」
「……やる」

 そうこなくては、と天佑はニッと口角を上げた。

「では、交渉成立だな。ところで、きみの名前は、玲燕でいいのかな?」
「そうだ」
「そうか、玲燕。これからよろしく。さっそくひとつ、私の相談に乗ってくれないか」

 そう言うと、天佑は都で起こったことを話し始めた。