「言われてみれば、玲燕にしっかりと話したことはなかったね。甘家は元々、桃妃様の生家である宗家に仕える一族なのだよ。なので、その縁で幼い頃から宗家には出入りすることが多かった」
「なるほど。そこに、幼い頃の陛下が預けられたため、出会ったのですね?」
「その通り。まあ、つまりは付き合いの長い臣下なのだが、ありがたいことにおふたりは俺を幼なじみのようなものだと思ってくださっている」
「幼なじみ、ですか」

 それであればあの気安い雰囲気も頷ける。
 そして、今回の事件はふたりを幼なじみとしてもつ天佑にとって、納得しがたい事件であることも理解できた。

「天嶮学に誓い、事件の真相を明らかにしてみせましょう」
「頼もしいな。頼むぞ」

 天佑は柔らかく微笑むと、玲燕の頭にぽんと手を置いた。


    ◇ ◇ ◇


 おおよそ三ヶ月ぶりに訪れる後宮は以前と変わらぬ見た目をしていた。
 長く続く回廊、等間隔に置かれた灯籠、赤く塗られた手すりの向こうに広がる、小石の敷かれた美しい庭園……。