「わかりました。その事件、引き受けます」

 玲燕は迷うことなく頷いた。
 玲燕が知る限り、翠蘭はそのような小細工をして人を暗殺するような人間ではない。

 それに、ひとつ引っかかることがあった。

 砒霜は無味無臭で、飲み物に混ぜるなどして暗殺によく用いられる。しかし、銀食器を常に用いる皇帝を暗殺するには不向きであると言わざるを得ない。なぜなら、食器の変色ですぐに毒を混ぜたことがばれてしまうからだ。

「皇帝を暗殺しようとするには、少々稚拙な計画であるとしか言いようがありません。桃妃様のご実家であられる宗家がこのような子供じみたことを企てるでしょうか?」
「俺もそう思う。英明様も、絶対に桃妃様のご実家である栄家の仕業のはずはないと言っている」

 半ば断言するようにそう言い切った天佑を、玲燕は見返した。

「前にも思ったのですが、天佑様は陛下や桃妃様とどのようなご関係なのですか?」

 潤王と天佑が一緒にいる様子を見れば、ふたりがとても強い絆で結ばれていることは明らかだ。潤王と桃妃が元々の婚約者であることも知っているが、この三人の関係をしっかりと聞いたことはない。