「すぐにその場で捕らえて、投獄した。刑部が取り調べを行っているが、知らぬと言うばかりで口を割らないそうだ。それで、実はその捕まった女官というのが少々厄介でな」
「厄介と申しますと?」

 玲燕は首を傾げる。

「その女官が、桃妃(とうひ)付きの者だったのだ。黄殿は桃妃のご実家である宋(そう)家が事件に関わっている可能性があると主張している」
「桃妃の? 一体どなたです?」

 偽りの錬金術妃として後宮で過ごす中で、さほど多くはないが、玲燕は妃達に仕える女官の何人かと知り合いになった。もしかしたら、知っている者かもしれないと思ったのだ。

「翠蘭だ」
「翠蘭が?」

 玲燕は驚いて目を見開く。

 翠蘭は玲燕がよくお喋りをしていた女官で、気さくで明るい女性だった。桃妃の生家から持ってきた木に生えたという茘枝を分けてくれたこともある。最後の最後まで玲燕が菊妃であるということに気付かないなど少々抜けている部分はあるものの、根は優しく善良な人だったと記憶している。

「本当ですか? 信じられません」
「事実、酒をついでいたのはその女官なんだ。それは、俺もその宴にいたから間違いないと証言する」