派手好きで連日に亘り宴席を設けていた前皇帝──文王に対して、現皇帝である潤王はあまり贅を好まないお方だ。しかしその寒椿の宴は燕楽(えんがく)の楽団が呼ばれ、舞女が踊りを披露する華やかなものだったようだ。
 豪華な食事が振る舞われ、楽しげな笑い声があちこちから聞こえてくる様子は参加していなくとも想像が付いた。

「その席で、事件がおこったのですか?」
「ああ。英明様が酒のおかわりをされたんだ。女官がついだ酒を飲もうとした瞬間、黄(おう)殿が『お待ちください!』と静止されて──」

 玲燕はそこで「よろしいでしょうか」と話を止めた。

「黄様とは、あの黄様でしょうか?」
「そうだ」

 貴族に『黄家』は複数あるが、今玲燕が思い浮かべた『黄家』はただひとつ、皇妃の一人である梅妃の実家だ。梅妃の父である黄(おう)連泊(れんはく)は、政界の有力者だ。

「黄様は陛下の隣にいたのですか?」
「いや、席は離れていた。ただ、その酒を陛下の前に継がれたのが黄殿で、黄殿の銀杯が変色していたのだ」

 なるほど、と玲燕は相づちを打つ。

「その酒をついだ女官は?」