「銀杯が変色……。ということは、砒霜(ひそう)でございますね?」
「そのとおり。さすがだな」

 砒霜とは毒物の一種で、無味無臭のため毒殺によく用いられる。ただ、その成分に硫黄を含んでいるため銀食器に反応する性質があり、銀食器に注ぐと食器が変色する。皇族が銀食器を好むのはこのためだ。

「その犯人を捕らえるのを手伝ってほしい。もちろん、報酬は十分に払うし動物の世話もする」
「天佑様に関して報酬を踏み倒すなどとは思っておりません。前回も、十分すぎるほどの対価をいただきました。それよりも、何があったのか、最初からご説明願えますか?」
「ああ、もちろんだ」

 玲燕は動揺する気持ちを落ち着かせようと、かまどで湧かしていたお湯で熱い茶を淹れた。天佑はそれを一口飲むと記憶を呼び起こすように宙を見つめ、ゆっくりと話し始めた。

「事件が発生したのは一週間ほど前のことだ。その日、皇城では寒椿の花を楽しむ宴会が催されていた。参加していたのは高位の貴族や官吏、宦官、それに、陛下の特別な計らいにより招かれた皇妃達だ」

 玲燕は天佑の話に聞き入る。