「いえ、そんなことはございません。ただ、こんなに頻繁に往復していては体に負担がかかるでしょう?」
「そうか、心配してくれているのか」
「まあ、そうですね」
「案ずることはない。こちらに仕事で用があるのだ」
「それならよいのですが」

 なんでこんなに嬉しそうなのだろうと不思議に思いながらも玲燕は頷く。
 当の天佑はと言えば、玲燕と世間話をして数時間を過ごすと、馬車に乗ってどこかへ去って行くという具合だ。


 いつもそんな様子だったので、その日訪ねて来た天佑の表情を見た瞬間、玲燕は何かただ事ではないことが発生したと悟った。

「天佑様、どうされましたか?」
「玲燕、知恵を貸してほしい」

 天佑は開口一番にそう言った。その美しい顔(かんばせ)にいつもの穏やかさはない。
 何が起きたのかと、玲燕はキュッと表情を引き締めた。

「何がありましたか?」
「……英明様の食事に毒が盛られた」
「え!? 容態は? 陛下はご無事なのですか?」

 玲燕は驚いて、聞き返す。

「ああ、無事だ。飲む前に異変に気付いて捨てたからね
「飲む前に? 刺激臭のある毒だったのですか?」
「銀杯が変色した」