◆ 第五章 事件、再び
光麗国では日に日に日差しが温かなものへと変わっていたが、日によっては冷え込みが厳しいこともある。そんな日は、暖かい鍋を作って暖をとるのが玲燕の日常だった。
「天佑様、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
お腕によそった具入りのスープを差し出すと、目の前に座る秀麗な男──天佑はにこりと微笑んだ。
「こう冷える日は、温かい物が身に染みる」
「それはようございました。でも、明明が作るものの方が手が込んでいるでしょう?」
「それはそうなのだが、これも素朴な味がしてうまいよ」
古びた民家にはおおよそ似つかわしくない男は、美しい所作で腕の中身をぺろりと食べるとおかわりまで要求してきた。
「天佑様、最近はお暇なのですか?」
「いや、そうでもないよ」
「では、こんなところに来ていていいのですか?」
玲燕は呆れて、天佑を見る。
玲燕が大明を去り早三ヶ月が経つが、天佑は数週間と置かずに東明(とうめい)にいる玲燕を訪ねてくるのだ。大明と東明は馬車で二日かかる距離だ。往復するだけで四日かかり、かなりの負担になるはずだ。
「私が来ると迷惑かな?」