鬼火の事件は、先に劉家が行ったものだった。さらに、その騒ぎを利用しようと画策した高家が模倣犯として暗躍し始めたので、事件を複雑にしていたのだ。

(少しは、天嶮学の汚名を晴らせたかしら?)

 潤王が臣下達の前で玲燕を労ったときの周囲の反応は、皆一様に驚きに包まれていた。十年以上も前に禁じられたはずの天嶮学の名が現皇帝の口から出て、さらにはその素晴らしさを認めたのだから。

 玲燕は手元の金貨を見つめる。実際の重さ以上に、それは重く感じられた。

 唯一の心残りは、力試しの大会で優勝できなかったことだ。ひと悶着あったものの、最終的な潤王の判断は『道具の使用は認められない』というものだった。
 
「これは、私塾を作るときの資金にいたします」

 玲燕は天佑に深々と頭を下げると、それを自分の懐へとしまう。

「東明には学ぶ場所が少ないか?」
「そうですね。官学はある程度の階級の家のものしか通えませんから、一般の子供が通う場所はほとんどありません」
「そうか……。自宅まで送ろう」
「片道二日かかります。送りの車を用意していただけただけで十分です」
「なに、遠慮するな」