その瞬間、高宗平の顔がさっと青ざめた。

「これが何かは、高殿はよくご存じでしょう?」
「なんだあれは? 黒い凧か?」

 答えられない高宗平の代わりに、周囲が騒めく。

「高様もご存じの通り、州刺史であられる郭家は凧揚げの技術に長けており、直近の凧揚げ大会で優勝したほどの腕前です。鬼火は、先ほど菊妃が見せた炎を黒い凧で上空に飛ばしたものだったのです。そして、一度だけ後宮内で目撃された鬼火は郭家ゆかりの宦官がおこなったこと。拘束した郭家の錬金術師は、高家から依頼されたと自白しております」

 高宗平の目がより一層見開き、握りしめていた手がだらりと下がる。その様子を高い位置から見つめていた潤王が片手を上げた。

「菊妃、さすがは天嶮学を学んだだけあるな。見事な推理だ」

 潤王は玲燕にねぎらいの言葉をかけ、横で呆然とする高宗平に視線を移す。

「あの者を捕らえよ」

 その言葉を合図に、周囲にいた武官が一斉に高宗平を取り囲んだ。


    ◇ ◇ ◇


 元々殆どなかった荷物はあっという間に詰め終わった。
 忘れ物はないかと、玲燕はがらんとした部屋の中を順番に確認してゆく。