「これで百五十斤でしょうか。では、この重りを私が三尺持ち上げて十秒数えて見せます。計測係、今の位置を記録してください」

 玲燕は計測係に測量を促す。バケツは地面に置かれているので、記録は〝ゼロ〟だ。

「それでは持ち上げます」

 玲燕はそう言うと、紐を持ち上げるのではなく、滑車のひとつに付いた持ち手を下に引いた。ゆっくりと動き始めた歯車が回り、バケツに付けられた紐は上に引かれる。
 ゆっくりと、しかし確実に、バケツは持ち上がった。

「輪軸か。考えたな」

 天佑は呟く。玲燕が持ち込んだこの装置は、井戸の水くみなどで使われる手法だ。直径の違う歯車を組み合わせることによって、小さな力で大きな力を生み出すことができる。

「持ち上がりました。もう三尺は上がったでしょう?」

 玲燕は横にいる計測係に問いかける。

「は、はいっ」
「では数えましょう。一、二、三……」

 あまりの予想外の行動に唖然とする一同を尻目に、玲燕はゆっくりと十数える。

「……十。百五十斤を持ち上げました」

 玲燕がすまし顔で言ったその瞬間、大きな声がした。

 ──異議あり!