「俺はちょうどここに依頼に来た客人だ。それより、何事だ?」
「客人? ここに? あんたも酔狂だね。天嶮学はまやかしだって言うのは既に有名な話なのに」

 中年の女性がそう言った直後、「まやかしじゃない!」と天佑の背後から大きな声がした。同時に、がらくたが崩れ落ちる大きなガシャンという音も。
 それで、先ほど天佑が来た際も玲燕は借金取りが来たと思い隠れていたのだなと合点する。

「ああ、いた! 玲燕、今日こそ両耳そろえて払ってもらうよ! 払えないなら出て行きな!」

 中年女性は玲燕の姿を認め、声を張り上げる。

「天嶮学はまやかしじゃない。訂正して!」

 玲燕は女性のほうを睨み付ける。

「そんなことより家賃だよ! 何カ月溜める気だい」
「……っ! すぐに払う!」
「言っておくけどね、あんた先月も同じこと言っていたからね」

 天佑は向かい合う玲燕と中年の女性の前に片手を出し、それを制止した。天佑は中年の女性を見る。

「家賃滞納か。滞納金は金はいかほどだ?」
「三十銅貨だよ」
「三十銅貨ね」

 一般的な農民の月収に相当する額だ。このボロボロの家の賃料がそんなにかかるとは思えないから、相当長い期間、支払いが滞っているのだろう。