「おい。どうしてこんなところに女官がいる。用意が終わったならさっさと出て行け」

 玲燕にぶつかった武官と思しき大男は、不機嫌そうに眉を寄せて顎をしゃくる。

「いえ。私もこの力比べに参戦しますので」

 玲燕は首を横に振る。
 すると、大男は目をまん丸に見開き、次いで大きな声で笑い出した。

「お前が? これはとんだ挑戦者だ。おい、お前、どこの家の者だ?」
「甘家でございます」
「甘か。どおりで。主も女のような顔をしてひょろひょろしている」

 周りにいた男達から、どっと笑いが漏れる。

 その嘲笑に満ちた言い方に、玲燕はムッとした。
 今日はそれぞれの家を代表する力自慢達ばかりが集められただけあり、どこを見ても屈強な男達ばかりだ。そんな中に玲燕が混じっているのは確かに異様に見えるだろうし、ひょろひょろしているのも否定しない。だって、女だし。
 けれど、それと天佑のことは全く関係がない話だ。それなのに、この男は玲燕を通して天佑のことを馬鹿にしていた。

「それでは、甘家の女官ごときに負けぬようせいぜい頑張ってくださいませ」

 玲燕は涼やかな目で大男を見返す。