「私もそれを疑ったのだが、それはない。出入りしていたのはこのひとりだけだ。それに決定的なことがひとつ、現在劉家ゆかりの者には宦官や医官がいない。後宮には入れないはずだ」
「では、その錬金術師からやり方を教えてもらった別人が行ったのでしょう」
「それならそれでよいのだが、何か見落としてはいないかと思ってな」

 天佑は腕を組む。

「見落とし……」

 天佑の心配も理解できた。
 ここで『あやかし騒ぎは劉家の策略だった』として劉家を断罪した後に、また同様の事象が起きれば今度こそ本当にあやかしの仕業にちがいないと大騒ぎになるだろう。

『我らは錬金術を用いて物事の真理を見極め、あらゆる世の不可解を解明し、また、世の不便を解決するのだ』

 父の言葉を思い出す。

(物事の真理を見極め──)

 天佑の言っているとおり、何か見落としていることはないだろうか。もし自分が劉家の当主の立場だったら──このようなことをしていたことが明るみになれば一大事なので、むやみに関係者を増やしたりはしないはずだ。

 玲燕はもう一度、目の前にある資料を見る。

「ん?」