「それは災難だったね。だが、私はそのようなことはしない」

 少年はちらりと天佑のほうを見たが、すぐに目を反らした。

「私は朝廷とは関わらない。奴らは嫌いだ」

 吐き捨てるように言ったその言葉に、なぜか言葉以上の意味を感じた。強い拒否感だ

(困ったな……)

 手ぶらで帰るわけにはいかないが、嫌がる少年を無理矢理連れ去るのも本意ではない。
 どうしたものかと逡巡していると、ドンドンドンと扉を叩く大きな音がした。

「おい、玲燕(れいえん)! いるのはわかってるんだから。今日こそ滞納している家賃を払ってもらうよ」

 続く、大きな声。

「げ」

 小さく呟いたその少年──名前は玲燕と言うらしい──は慌てたように先ほど崩れたがらくたの山に身を潜める。
 ドンドンドンと再び扉を叩く音がした。

 天佑は扉に歩み寄り、それを開けた。

「やっと出てきた! 今日こそ──。あらっ、あんた誰だい?」

 扉の外にいたのは、中年の女性だった。白髪が混じり始めた髪をひとつにまとめ、薄汚れた胡服を着ている。