玲燕は遠い目をする。

(あのふたり、何考えているの!)

 酒の席での戯言だ。
 勝負するにしても、ただの武官同士の個人的な勝負にすればいいものを。家を巻き込んだ勝負などにすれば、各家門が色めき立ってこうなるのは目に見えているのに。

 そして、恐らく蘭妃が梅妃に勝ちたいと画策することを予想した上で、潤王は玲燕のことを蘭妃に吹き込んだのだろう。梅妃の実家である黄家の当主──黄連伯は現在、刑部尚書、すなわち警察のトップだ。蘭妃の言うとおり、力自慢の者も多いだろう。

 半ば二人まとめて罵倒したい気持ちに駆られたが、玲燕は一切それを表に出さずににこりと微笑む。

「そうですか。蘭妃様のお望みは、梅妃様の生家であられる黄家の優勝阻止でよろしいですね?」
「ええ、そうよ。そのために、あなたに知恵を借りられないかと思って。私の実家は大明から距離があるから、領地一の力持ちを連れてくるのは時間的に無理なの。だから、二週間で我が家の大明の屋敷で雇っている衛士を強くしてほしいの」

 玲燕は苦笑する。二カ月ならまだしも、二週間で持ち上げられる物の重さを飛躍的に伸ばすなど、不可能だ。