「ああ、栄祐様。いらっしゃい」

 玲燕は顔を上げる。

「準備は整っております。こちらへどうぞ」

 立ち上がった玲燕は、菊花殿の裏にある庭へと天佑を案内する。秘密通路に繋がる灯籠もある庭は、真っ暗な闇に包まれていた。

「よい風が吹いておりますね。よかった」
「ああ。少し肌寒いほどだ」

 何が『よかった』なのだろうと不思議に思ったものの、天佑は相づちを打つ。
 深まる秋の夜、日によっては驚くほど寒くなる。風が木々を揺らす、ざわざわとした音が聞こえてきた。

「それで、残る鬼火の謎も解けたというのは?」
「はい。それでは、お見せしますね」

 玲燕が手に持っていた物に、灯籠から火を移す。それは、いつぞやに見た鬼火と同じような色をしている。

「今からこの火を、空に飛ばします」

 玲燕はそう言った次の瞬間、鬼火が空高く舞い上がった。そして、空の一カ所でゆらゆらと揺れる。

「これは一体?」

 天佑は呆けたように、上空を見上げる。

「原理がわかれば、極めて単純なことでした。これは、黒い凧を使っているのです」
「黒い凧?」
「はい」

 玲燕は頷く。