「そういえば、桃妃様より天佑様は以前、錬金術を嗜んでいらしたと聞きました」

 玲燕はこの空気を変えたくて、違う話題を振る。

(あら?)

 その瞬間、天佑の表情が少し曇ったような気がした。

「錬金術を嗜んでいたのは、俺ではない」
「あれ、そうなのですか? 申し訳ございません。桃妃様が天佑様が嗜んでいらしたと仰っていたので。以前、お兄様が嗜んでいたと仰っていましたね。きっと、桃妃様は勘違いされたのですね」
「そうだな」

 天佑はそれきり黙り込む。

「……私、てっきり栄佑様というのは一人二役をするために作った架空の方だと思っていました。天佑様には本当に、栄佑様という弟がいらしたのですね。彼は、今どこに?」

 先日礼部で会った雲龍や、今日の桃妃の反応を見る限り、栄佑という人間と天佑という人間は別々に存在していることは間違いなさそうだ。だが、玲燕が知る限り、本物の栄佑を見たことはおろか、気配を感じたことすらただの一度もない。

 天佑は手で頭に触れ、悩ましげな顔をする。

「……栄佑は数年前に、鬼籍に入った」

 玲燕はヒュッと息を呑む。