「桃妃様はそういう方ではない。それに、ご実家である宋家もだ。宋家の当主であられる桃妃様のお父上は、陛下の即位を心から喜んでおられた。なにせ、自分の家で世話をしていた皇子が皇帝になったのだからな」
「それはそうですね」

 鬼火は一回を除き、全て後宮の外で目撃されている。桃妃が犯人だとしても、犯行には強力な協力者──実家の後ろ盾が必要だ。しかし、桃妃に関しては実家が潤王の即位を大いに喜んでおり、それが望めない。つまり、犯行には関わっていない。

 極めて単純明快で、説得力のある理論だ。玲燕もこの推理には全面的に賛成する。
 ただ、なんとなく心の中でもやもやしたものが沸き起こる。

「天佑様は、随分と桃妃様のことを肩入れしていらっしゃるのですね」
「肩入れ? 事実を言っただけだ」
「そうですが、最初から桃妃様だけは違うと決めきっているかのような言い方でした」
「そうか? そういうつもりで言ったのではない」

 天佑の声に、戸惑いが混じる。

「……いえ、私も申し訳ございません」

 なぜこんな風にイライラしたのだろう。玲燕は自分の気持ちが掴みきれず、ぎゅっと手を握った。