長く美しい髪を高髻(こうけい)に結い上げており、その頭上には金細工の簪が付いている。その金細工の簪の端には赤い瑪瑙(めのう)が輝いており、さほど派手さはないものの上品な美しさを演出していた。
 桃妃の両側には侍女と思しき数人の女官がいたが、玲燕と面識のある翠蘭はいない。

「これは、桃妃様。本日もご機嫌麗しく」

 鈴々が頭を下げる。
 桃妃に対し、玲燕も頭を下げた。

「はじめまして、桃妃様。菊妃でございます」
「菊妃? まあ、あなたが?」

 立ち止まった桃妃は玲燕を見つめ、驚いたように目を丸くする。

「はじめまして。陛下や侍女達から噂は聞いていて、一度会ってみたいと思っていたの。偶然ね、嬉しいわ」

 桃妃は玲燕を見つめ、ふわりと笑う。それだけで、あたりが華やいだような気がした。

「そのように思っていただき、光栄でございます。……先日、桃林宮の方より茘枝を分けていただきました。ありがとうございます」
「茘枝? 翠蘭かしら? 確か、茘枝を分けると言っていたような」

 桃妃は記憶を辿るように、口元に指を当てる。

「とても元気のよい新入り女官がいるそうね」