ある日、また恐ろしい捕吏達がやって来て大切な人を連れて行ってしまうのではないか。玲燕はもうひとりぼっちで大切な人など残っていないのに、未だにそんな不安に駆られるのだ。

「天佑様は──」

 口を開きかけたそのとき、がさっと音がした。

「な、何?」

 驚いた玲燕は、びくりと肩を揺らす。天佑がさっと手を伸ばし、玲燕を引き寄せた。
 玲燕はどきどきする胸の鼓動を必死に落ち着かせ、音のしたほうを見る。

「あれは、猫か?」
「そうですね……」

 木々の合間からこちらに近づいてきたのは、一匹の猫だった。灯籠の明かりに照らされて見ると、濃い茶色の毛並みをしていた。どこかから迷い込んだのか、もしくは後宮内のどこかで飼われているものなのかはわからない。

「驚きました。突然、物音がするから」

 玲燕はほっと胸をなで下ろす。

「色が暗いと、夜はよけいに見えにくいからな」
「ええ、そうですね……」

 そこまで言った瞬間、玲燕はハッとした。

「色が暗いと、夜は目立ちにくい?」
「ああ。それはそうだろう?」

 天佑はなぜそんなことを聞き返すのかと言いたげに、怪訝な顔をする。