少年はわかりやすくほっとした表情を浮かべると、出口のほうを指さす。

「いや、そういうわけにはいかない。きみは錬金術師なのだな? では、きみに来てもらおう」

 天佑の言葉に、少年は「は?」と声を上げる。

「何を言っている。私は天嶮学士でも、著名な錬金術師でもない。ただの錬金術師だ」
「だが、この地域に錬金術師はきみひとりしかいないのだろう? 俺は、ここまで錬金術師を探しに来た。手ぶらでは帰れないんでね」
「断る」

 少年の眉間に深い皺が寄る。

(ずいぶんと、感情がわかりやすいやつだ)

 不機嫌さを隠そうとしないその態度に、かえって好感を覚えた。
 人々の欲望と嫉妬が渦巻く都では皆が仮面を被っている。こんなに素直に感情を露わにする人間に会うのは、久しぶりだ。

 歳はまだ十代半ば位だろうか。
 高い声から察するに、まだ声変わりすら迎えていないようだ。

 意志の強そうなはっきりとした瞳はこの国のものにしては薄い茶色。すっきりとした、けれど小さな鼻と薄紅色の口元はまるで少女のようだ。
 背中の半ばまで伸びた艶やかな黒髪は、麻ひもでひとつにまとめてあった。
 あまり外には出ないのか、平民にしては色白で、棒きれのような貧相な体つきをしている。