「構わない。俺も悪かったと言っただろう」

 ふたりの間に沈黙が訪れる。
 いつも口元に笑みを浮かべた余裕の態度の天佑が先ほどのように焦った姿を見るのは、玲燕が知る限りは初めてだ。きっと、本当に玲燕を心配して慌てたのだろうと思った。

 玲燕と天佑は、ふたり並んで後宮内の回廊を歩く。
 時刻は既に深夜だ。等間隔で置かれた灯籠以外に明かりはなく、あたりは闇に包まれていた。

「真っ暗ですね。こんな日は、鬼火が現れそうです」
「ああ、そうだな。明日あたり、また新たな目撃情報が届くかもしれない」

 天佑は首の後ろに手を当て、はあっと息を吐く。ただでさえ忙しい中、なかなか収まらないこの鬼火騒ぎのせいでよけいに負担が増しているのだろう。

(人がやっているのは確かなのよね)

玲燕は歩きながらも考える。

 ──鬼火は人の仕業によるものである。犯人は恐らく潤王が皇帝にふさわしくないと思われることを望んでいて、かつ、後宮にも入れる身分を持っている。