「それで、今日はどうして私を? まさか、夜通し囲碁を打つために呼び出したわけではないでしょう?」

 玲燕は囲碁盤を挟んで向かい合う潤王を見つめる。

「どう思う?」

 潤王は質問に答えることなく、逆に玲燕に問い返してきた。
 玲燕ははあっと息を吐く。

「先日、天佑様から渡された資料類を読んでいたときに知ったのですが、陛下は幼い頃、宋(そう)家にいらっしゃったのですね」

 幼い皇子達が貴族の家で一定期間を過ごすのは、光麗国ではよく見られる風習だ。

「私の予想では、桃妃様をお守りするためです」
「なぜそう思う?」
「私を夜伽に呼びながら、夜伽を求めなかったからです」

 玲燕は潤王をまっすぐに見返した。

「陛下の皇位継承権は、元々さほど高くありませんでした。大明で疫病が流行って皇子達が次々と亡くなる前は、陛下が皇帝になるなど誰も予想しておりませんでした。当時、陛下は宋家に婿入りすることなっていたのではないですか?」

潤王が預けられていた宋家は地方の有力貴族であり、桃妃の実家でもある。