碁盤を見つめる潤王は、腕を組んだ。

「囲碁はあまりたしなまないという割には、なかなかやるな」
「お褒めに授かり光栄にございます」

 玲燕は表情を変えず、頭を少し下げる。その様子を見つめ、潤王はふっと表情を和らげた。

「だが、まだまだだな」

 パチン、と碁石を置く音がまた響く。碁盤を見る玲燕は眉根を僅かに寄せた。

(蓮妃様から陛下は囲碁が上手いとは聞いていたけど、なまじお世辞ではないようね)

 菊花殿にいた玲燕のもとに見慣れぬ宦官達が訪れたのは、つい数時間ほど前のこと。

『菊妃様。今宵、陛下の夜伽のお相手に選ばれましたこと、お喜び申し上げます。つきましては、夜伽の作法についてご説明させていただきます』

 かしこまってそう告げた宦官を見つめたまま、玲燕は暫し動きを止める。

『……何かの間違いでは?』

 数十秒の沈黙ののちに口を出たのは、そんな台詞だった。なぜなら、玲燕は偽りの妃であり自分が夜伽に召されることなど絶対にないと高をくくっていたから。