潤王は驚いたように僅かに目を見張る。そして、口元をふっと綻ばせた。
「天嶮学がまがいものでないことを、か。なるほど。お前の意思はよくわかった」

 よいとも悪いとも言わない返事だった。しかし、少なくとも拒否ではないと玲燕は受け取った。

「楽しかった。また今度会おう。天佑も、邪魔したな」

 潤王は片手を上げ、立ち上がる。
 その後ろ姿を、玲燕はしばし見つめる。完全に背中が見えなくなったところで、どっと肩から力が抜けるのを感じた。

「驚いた……。陛下は……その、なんというか。型破りな方ですね」

 ただの官吏のふりをしてふらりと臣下の元を訪れたり、天佑に〝宦官の栄佑〟という偽の身分を与えたり。潤王の普段の仕事ぶりは直接目にしたことがないが、『皇帝らしくない』と反対派が多いのも頷ける。

「驚いていた割には、随分と堂々と話しているように見えたが」

 天佑は笑う。

「それにしても、天佑様は随分と陛下から信頼されているのですね。後宮との秘密通路も知っているし」
「あのお方とは付き合いが長いから」