「玲燕か。玲は美しさを、燕は安らぎを意味する。よい名だ」

「お褒め頂き、ありがたき幸せにございます」

 玲燕は深々と頭を下げる。

「ところで、鬼火の犯人捜しは進んでいるか?」

 潤王と視線が絡む。
 口元は穏やかに微笑んでいるが、じっとこちらを見つめる瞳の眼光は鋭い。玲燕の能力を見極めようとしているように見えた。

「まだです」

 玲燕は首を横に振る。

「解決に向けて、何か希望はあるか?」
「できるだけ多くの、疑わしき人々の情報がほしいです。あとは──」

 玲燕は口ごもる。

「なんだ? 言ってみろ」

 潤王は逡巡する玲燕の迷いを断ち切るように、先を促す。

「僭越ながら申し上げます。私が謎を解明する際は、多くの人の前で推理を披露したいと思います」
「ほう? なぜだ?」
「私の錬金術は天嶮学の系統をなすもの。天嶮学がまがいものではないと知らしめるためです」

 玲燕はまっすぐに潤王を見つめる。

 偽りの妃である玲燕が皇帝を凝視することは本来あってはならない不敬だが、玲燕はそれをわかっていて敢えて潤王を見つめた。