天佑が見た記録では、最後に朝廷が天嶮学士に力を請うたのは十年ほど前。都で起きたあやかし騒ぎを解決すべく助力を請うた。しかし、天嶮学士は物事の真理を見誤ってときの皇帝に誤った事実を伝えた。
 そして、その罪を問われて斬首されたのだ。

 以来、天嶮学はまがいものとされ、その言葉を口にすることすらタブーとされて久しい。

「今更何を言っているのやら。滑稽な話だ。残念だが、お探しの人物はいない。この地の錬金術師は私ひとりだ」

 少年は肘を折ると両手を天井に向け、肩を竦める。

「なんだと?」
「錬金術が盛んだったのはもう昔のことだ。数年前までは何人かいたが、ひとり、またひとりとこの地を去った。最後のもうひとりは先月流行病で亡くなったから、残っているのは私ひとりだ」
「……なるほど」

 天佑は思案する。

(どうするかな)

 都からはるばるここに来たのは、現皇帝である潤王から錬金術師を連れてきてほしいと請われたからだ。手ぶらで帰ることはできない。

「話はわかった」
「物わかりがよくて助かった。では、帰れ」