「まず、吏部侍郎であられる天佑様の部屋にノックもなしに入ってきたこと。すぐに高位の身分だとわかりますが、そのくせ高い身分を表わす色の袍服を着ているわけでなければ、腰に革帯もしていらっしゃらない。なのに、刀をぶら下げるというちぐはぐさ。さらに、髪に薄らと冕冠(べんかん)を被っていた後が付いている。もう、『私は皇帝です』と言っているようなものです。そして決定的なことがひとつ。天佑様にしか言っていないはずの私が錬金術師であるという事実を、あなた様は知っていました。そうでなければあのようなおかしな質問を突然したりはしないでしょう?」

 淡々とした玲燕の解説に潤王は目を丸くしたが、再び声を上げて笑い出す。

「これは見事だ。さすがは天佑が連れてきただけある」

 そのやりとりを眺めていた天佑は、会話が一旦途切れたタイミングを見計らっておもむろに口を開く。

「英明様。改めてご紹介いたします。こちらが錬金術師の葉(ヨウ)玲燕殿です」

 英明とは、潤王の真名だ。それを呼ぶことを許されるとは、よほど天佑は皇帝の覚えめでたいのだろうと玲燕は悟った。

 一方の潤王は、ふむと頷いた。