ふと見れば、部屋の入口に見知らぬ人影があった。片手を扉枠に預け、こちらを見つめている。

 玲燕は突然現れたその人物を呆けたように見上げた。
 しっかりとした上がり眉、まっすぐに人を射貫くような目つき、えらの張った顎は男らしい凜々しさがある。背が高くがっしりとしたその姿はまるで軍人のようだが、服装は上衣下裳を着ている。その少しくすんだ黄色の上衣下裳の全体に細やかな文様が入っており、一目で絹の高級品だとわかった。

 男は玲燕と目が合うと、少し意外そうに片眉を上げ、上から下まで視線を移動させる。

「本当に、若いな。それに、女だ。どんな仙人のような老師が現れるのかと思っていたが」
「だから、若い女性だと言ったではないですか」
「実際にこの目で見るまでは信じられなかったのだ」

 男はつかつかと部屋に入ると、おもむろに椅子を引き玲燕と同じ机に向かった。

「力試しをしてみたい」
「力試し?」

 玲燕は男を見返す。

「そうだな──」

 男は周囲を見回し、たまたま目に入った皿に載った胡麻餅に手を伸ばした。