パタンと扉が閉まる音と共に、しわがれた声がした。
玲燕は入り口のほうを振り返る。そこには、濃い紫色の袍服に身を包んだ壮年の男性が立っていた。顎には立派な髭を蓄えている。
「甘殿自らがここにお越しになるとは。ついにこちらの意見に賛成してくれるということかな?」
天佑はその男を見て、にっこりと笑みを浮かべた。
「これは、高殿。あいにくですが、新任の官吏のリストを届けに来ただけです」
「そんな雑用を吏部侍郎であられる甘殿自らがなさるとは、よほど吏部はお暇らしい。いやいや、羨ましい限りですな」
きつい皮肉を織り交ぜ、男は天佑の隣にいた玲燕に視線を移した。
「見慣れない顔だが、若手の官吏か? 君もそんな閑職ではなく、礼部に来たらどうかね」
玲燕は目の前にいる男を、まっすぐに見返す。
年齢は五十代だろうか。髪や髭にはだいぶ白髪が混じっていた。
濃い紫色の袍服はかなりの高位であることを表わしており、腰帯には帯銙(たいか)と呼ばれる飾りがたくさん付いていた。
(礼部でかなりの高位で高氏というと──)
玲燕は入り口のほうを振り返る。そこには、濃い紫色の袍服に身を包んだ壮年の男性が立っていた。顎には立派な髭を蓄えている。
「甘殿自らがここにお越しになるとは。ついにこちらの意見に賛成してくれるということかな?」
天佑はその男を見て、にっこりと笑みを浮かべた。
「これは、高殿。あいにくですが、新任の官吏のリストを届けに来ただけです」
「そんな雑用を吏部侍郎であられる甘殿自らがなさるとは、よほど吏部はお暇らしい。いやいや、羨ましい限りですな」
きつい皮肉を織り交ぜ、男は天佑の隣にいた玲燕に視線を移した。
「見慣れない顔だが、若手の官吏か? 君もそんな閑職ではなく、礼部に来たらどうかね」
玲燕は目の前にいる男を、まっすぐに見返す。
年齢は五十代だろうか。髪や髭にはだいぶ白髪が混じっていた。
濃い紫色の袍服はかなりの高位であることを表わしており、腰帯には帯銙(たいか)と呼ばれる飾りがたくさん付いていた。
(礼部でかなりの高位で高氏というと──)