いくつかの渡り廊下を抜けた先には、先ほど行った礼部に似た大きな四角い建物が見えた。
 天佑は慣れた調子で、入口を開く。天佑の肩越しに中を覗くと、沢山の官吏達が何やら書類とにらめっこしているのが見えた。

「雲流。書類を届けに来たぞ」

 天佑がそのうちのひとり、若い男に話しかける。書類を睨んでいた官吏──李(り)雲流(うんりゅう)ははたと顔を上げた。

「これは、天佑ではないか。珍しい奴が現れたな」

 雲流はにこやかな笑みを浮かべると立ち上がり、天佑から書類を受け取る。そして、その場で中身を確認した。

「今年、ここに配属される官吏の一覧か。しかと受け取った」 
「ああ、頼む」

 天佑は軽く片手を上げる。

「体調を崩したと聞いたときは心配したが、すっかり元気なのか?」
「ああ、心配ない」

 天佑は口元に微笑を浮かべる。

(体調?)

 天佑は以前、体調を崩していたのだろうか。ふたりのやりとりを聞いていると、どうやらそうなのではないかと窺えた。

 そのとき、背後の入り口が開く音がした。

「これはこれは、珍しい方がいるものだ」