放課後、半信半疑ながらも私は図書室へ行った。扉を開けて足を踏み入れても、本屋の香りはしなかった。あれは書店限定のものらしい。
ラブレター郵便制度をつくるくらいだから、利用者は少ないだろうなあとは思っていたけれど、想像以上にいない。数人の生徒が勉強コーナーで自習をしているくらいで、本棚のほうに生徒は私だけ。図書室を貸し切ってるような、変な感じだ。
この学校の図書室は少し小さいけれど、おかげでぽかぽかと暖かかった。窓からは日も差し込んでいて、眠くなる。
――この雰囲気、好きだなあ。
その後も少しぶらぶらと散策をして、図書室を満喫した。室内を一周すると、カウンタ―に辿り着く。中には、司書さんらしき男の人がひとり。
未那曰く、本の貸し出しはお昼休みは図書委員、放課後は司書さんが行うらしい。だからラブレターの受け取りは、放課後限定なんだと。未那はなぜか、こういう情報に詳しかった。私は疎い。
それから、司書さんは聞いていた通りにかっこよかった。未那はやっぱり面食いだなあ、とか感心して、とりあいず観察。
んん、あだ名をつけるなら”イケメンぐうたらお兄さん”かな。頬杖をついて、うとうとと眠そうにしているから。
数秒眺めていると、イケメンなその人の目は開いた。視線が絡む。目が、合ってしまった。気まずくなって、なんとなく目を逸らす。少し見つめすぎたかもしれない。はずかしい。
しょうがないやと思い直して、私はカウンターへ向かった。
「……あの。これ、お願いしますっ」
厚さ薄めの小説を、カウンターの上に置いた。ついでだから何か借りていこうと思った時に、ちょうど目に入った本。
読書は好きだ。暇な入院生活、娯楽の”ご”の字もでない病室で、唯一私を楽しませてくれたものだから。
司書さんに声をかけると、彼は眠そうにあくびをして伸びをした。やっぱりイケメンだらだら…――んん、なんだっけ。まあいいや。
「はい、どうぞ。返却は一週間後ね」
司書さんがバーコードリーダーを翳すと、ピ。電子音が鳴った。
その後の司書さんは、役目は終わったぞと言わんばかりにお休みモードに入った。若干感心しながらも、本題に入らないと、と私は改めて息を吸った。
「ありがとう、ございました。……あのっ」
「……うん?」
「私、ラブレターを、受け取りに来たんですけど」
「あ、はいね。合言葉は?」
……本当だったんだ。絶対怪訝な顔をされて、お叱りを受けると思っていたのに。未那はほら吹きじゃなかった。
次に思ったのは、慣れてるな。私が要件を言うとすぐ、カウンターの端に置いてあったクリアボックスのふたを開けたから。
――この箱の中に、ラブレターが……。
心臓が高鳴る。
「ええと、”L”です。大文字で」
私がそう言うと、驚いたような顔をして、司書さんは一瞬固まった。
「十和さん……いや、まだいいや。あるから、ちょっと待ってて」
「? ……あ、ありがとうございますっ」
司書さんはクリアボックスの中から白い封筒を一枚取り出し、私に渡した。
「じゃあ、また来てね」
「あ、はい。……ありがとうございました」
「はいねー」