母を責められなかった。自分の命で罪を贖おうとした母を。

死んでしまった理由を、咲桜を殺そうとした理由を、誰も教えてくれなくて。

もう、母が謝ることはない。だから責めることも出来なかった。泣きつくことすら。

「もっと……いっしょにいたかったよぉ……さおががんばってるの、見ててほしかった……っ、ずっと、父さんといっしょにいてほしかった……っ」

ずっと胸につかえていた思い。悲鳴のように転がり出る。

母さんと父さんが一緒にいるのを見るのがすきだった。

二人とも、いつも優しくて穏やかに笑っていた。

その間にいられた私は、とてもしあわせだった。

「わたし……りゅうやくんまで………いなくなっちゃやだ……っ、母さんのこと、ゆるすし、もう死なないし、ちゃんと……ちゃんと、生きるから……お願いだから、いなくならないで……」

私のお願い。

本当は、そう願いたかった。

流夜くんを失えないのは、私も同じだ。

「うん……いなくならない。死んだりしない」

「……ううぅ………」

「だから咲桜。恋人は、終わりにしよう」

「………っ」

「………」

「……………やっぱり、……そう、なの……」

思い切りつぶっていた瞳が、流夜くんに向いた。

「いや――ちょっと違うかな。少し、考えよう」

「……考え?」

「ああ。一度、恋人は終わりにしよう。それで、考えよう、二人で。これからをどうするか」

「………」

「選択肢はたくさんある。だから……一生かかるかもしれない。咲桜の人生を、考えるために束縛してしまうかもしれない。でも、ちゃんと考えていきたい。……ごめん、咲桜のこと、手放せない。それだけは、ごめん……ゆるしてくれ」

「……いいよ。わたしも、かんがえる。私こそ、流夜くんの一生、くっついてはなれられなかったら、ごめん」