「………」
名前を呼ばれたことはわかった。
緩慢な動作で声の方を見る。吹雪が仁王立ちしていた。
「今、辛いのは誰?」
「………」
「流夜だよね」
「………」
「咲桜ちゃんだよね」
「………」
「在義さんでもあるし、夜々子さんでもあるし、笑満ちゃんでもあるし、降渡や僕でもある」
「………」
「でも、在義さんも夜々子さんも笑満ちゃんも、僕も降渡も、二人が元気になったら、辛いのは終わるよ」
「………」
「流夜が辛いのは、咲桜ちゃんが辛い思いをしているからだろ? だったら、お前はどうするんだよ」
「………」
「今、この状況で、咲桜ちゃんを大丈夫に出来るのは誰だって聞いてんだよ」
「……………さお……」
「お前は、咲桜ちゃんの何なの」
「………」
「僕は、衛の言葉がすきだよ。『真実を歪めるだけだ』。十三らしいよ。十三は、――生きにくい命の十三はそうやって生きて来た。その生き方を、僕は否定しない。どんな過去があろうが今だろうが、清濁併せ呑んで生きていいと思ってるよ」
……清いも、濁りも。
そっと、瞼をおろした。
「……………。ああ、そうだな。あいつらは清々しいほど濁った生き方をしていたな」
「僕の中で、咲桜ちゃんにはお前の恋人って立場しか与えていないよ」
俺はやっと、眩しい灯りの中で目を開くことが出来た。
「ああ。――そのままで、いい」