「………」
抱きしめたとき、咲桜に体温を感じられなかった。
在義さんに手を引かれて離れた咲桜。
抵抗も、俺にすがることもなく。
ただ、ガラス玉のような瞳をしていた。
光を反射させていても、感情の抜け落ちてしまった瞳。
降渡と吹雪に強制的にアパートへ連れて来られて、そのまま床に座り込んで以来動けないでいた。
時間はどれだけ経っただろうか。
何も言わないけど、二人はずっと俺の部屋にいた。
部屋が昏(くら)い。
そう思って、のろのろと顔をあげた。
そうすると雨音に気づいた。
ああ……あのときは咲桜がいたのに、どうして今いないんだろう。
ぼんやり、カーテンも閉めていない窓の外を見遣ると、俺が顔を動かしたことが合図のように、どちらかが立ち上がる音がした。
カチリと音がして電気がついた。
いきなりの灯りがまぶしくて、目を細めた。
「流夜」