『そんで、いつでも遙音くんが泊まりに来れるようにって、客室を遙音くん用に改造するんだって二人して言い出して、びっくりした遙音くんが止めに入った』

「………」

うーん、優しさの基準がわからなくなる話だ。

私は役立たずもいいところ、唸ることしか出来ない。

『でも……遙音くんが流夜くんたちに師事して、学問の世界に行ってなかったら、あたし……遙音くんと、逢うことすら出来てなかったのに……』

遙音先輩は、高校に行く気はなかったと聞く。

ちょうど流夜くんが藤城に赴任したから、「神宮がいるところなら」、と特待生枠を獲って入学したのだと。

……確かに、再会の場は、ここだった。

ここでなかったかもしれない。でも、笑満と遙音先輩の天命はここで結ばれた。

「笑満は――遙音先輩が、そういう流夜くんたちの側になること、嫌だったり止めたりしたいとは思わないの?」

『あたしは……お父さんたちより、たぶん在義パパを知ってるからかも。遙音くんに、はっきり宣言されてる。流夜くんたちの方へ、行くって。……支えになりたい、とは思うけど、支えになれるかは不安になった。でも、止めようとは思わなかった』

……ごめん、笑満。大分私のせいで、笑満の感覚をずらしちゃったかもしれない。

空いている片手で顔を覆った。

――そう言われているのなら、

「……遙音先輩がどう決めるか――判断するか、しか、ないのかな……」

『………うん』

笑満の声は浮かない。私は軽く息を吐いた。

わかっていたことだけど、失念していた。

「でも……それが普通だよね」

『……うん。あたしも感覚マヒしてたかも』

「ごめん」

『咲桜のせいじゃないよ』

笑満の声が少しだけ軽くなった。

『とりあえず咲桜、今日も学校でね。あとでもっとラブラブ話聞かせてもらうから!』

気を取り直したように半分高い声で宣言されて、また苦みを噛みながら笑った。「うん、また」と。