「……在義兄さん」

「………夜々ちゃん」

華取の家のリビングで、陽も暮れて来たというのに在義兄さんは部屋に電気もつけないでいた。

咲桜ちゃんの部屋から降りて来たわたしは、ソファで項垂れる在義兄さんの傍らに立った。

「……なんで、なんでしょう……」

「………うん」

「あの人なら……あの人だけが、咲桜ちゃんを、一番に見て、唯一として………あいして、るのに……」

「うん。今でも、俺もそう思うよ」

「……鑑定なんて、百パーセントじゃない。間違いかもしれないのに」

「……うん。……流夜くんには、こんな結果、問題ないんだよ。ただ……咲桜は、納得も溜飲(りゅういん)も、できないよ」

「………そう、かもですけど」

「……『真実(ほんとう)を否定してもしょうがない』」

「? それは、なんです?」

「十三桜(じゅうさんざくら)の一人の雅(みやび)くんの口癖だ。それに、衛くんは返した。『真実を否定してもしょうがないなら、真実を歪めるまでだ』。……あの子たちらしい答えだよ。それが、十三の答えだった」

「………」

「流夜くんは少なからず、十三の影響を受けている。真実を歪めることだって、彼の中では可能だろう。……普通の子なら、抵抗を感じるかもしれないけどね。十三の答えは、世界に背く言葉だ」

「……そういう、子たちですね」

「ああ。……咲桜も、そういう考えになれれば……と思うけど……。今は、声を聞くことも拒否している。……生きることを、拒否している」