ぐいっと、不意に上から腕を引き上げられた。
父さんの腕から離れて、馴染んだ、一番安心の出来る場所の中だった。
――けど、今はその姿すら見られない。
「んっ!」
力の限りと思うほど強く抱きしめられ、乱暴に口づけられた。
後ろ頭を捉えられて、抗う術もない。誰も、何も言わない。
誰も行動しない。誰も……流夜くんとの口づけを、止めなかった。
呼吸が苦しくなった頃、やっと唇が離された。
そのまま、今度は頭を抱き込まれる。
「りゅう――
「お願いがあります、在義さん」
「………」
「咲桜を俺にください」
「……流夜くん」
「お願いします。咲桜を俺にください。咲桜以外には何も望みません。いりません。……咲桜だけ、いてくれればいいんです。お願いします」
「……流夜くん、私は、それには肯けないよ」
「――在義さん!」
「咲桜が……娘が望まなければ、君のところへはやれない。背中を押してやれないよ。流夜くん、今の咲桜が、見えているか?」
「………っ」
父さんが、流夜くんの腕の中から、私の肩を引く。
「せめて……少し、待ってもらえないか。咲桜の……意識がはっきりするくらい、までは……」
+++
誰かに抱きしめられている。それだけはわかった。
いるのは自分の部屋だ。それもわかった。
頭が動かない。
現実を――生きることを拒否している。
このまま……心臓なんか、止まってしまえば。こんな、血を動かしている心臓なんて。
「咲桜ちゃん……」
「さお……」
耳に馴染んだ声。
今は、遠い。