「わたしがぶつかっちゃったの。ごめんなさい」
「そっか。尊がすまなかった」
「いえ。私もぼーっとしてたので。お連れ様がいてよかったですね」
笑みを返したとき、私の方にも呼び声がかかった。
「咲桜―、お待たせ―。ん?」
「ごめん、遅くなった。あ、衛さん? 尊さんも」
笑満と一緒に戻って来た先輩が、何故か二人のことを名前で呼んだ。
「遙音先輩、お知り合いですか?」
「え? あー、うん」
歯切れの悪い返事だった。
すると、まもると呼ばれた青年が軽く笑った。「遙音」、と名を呼んで。
「心配しなくても蒼から聞いてるよ。流夜と一緒に城葉に来たんだろ?」
「え?」
私は、今度は青年を見返す。
今、誰の名前が出て来た? 蒼さんに……流夜くん?
「はじめまして。華取咲桜さん。流夜の古馴染です」
「………え?」
今、自分の名前? 私は何度も瞬く。
「衛くん、色々経緯すっ飛ばしてるよ。蒼くんから咲桜さんのことは聞いてるんです。わたしたち、桜学の元Pクラス生で、流夜くんを桜学にお誘いしてる神林蒼くんの同期です」
『………』
私と笑満、揃って瞬いた。
私……たち? そう言ったのは小柄な少女。青年と同い年だったのか。
神林蒼さんは、私立の名門桜宮学園の教師で、流夜くんに桜学への転属を要請している人だ。
私は以前、流夜くんに紹介してもらっている。