中に入って鍵を閉めた。
換気扇を回して、料理を作る。
もしかしたら来たことを怒られるかもしれない。
流夜くんの変な方向に真面目な性格からして、たぶんそうなる。でも、いい。
怒られたら明日は来られないかもしれない不安があるので、量は多めに作った。流夜くんのすきなものばかり。
ローテーブルに置いたり、タッパーに入れて冷蔵庫に入れたところで玄関が開く音がした。
帰ってきた。
時間が惜しいのでエプロンで手を拭きながら迎えに出た。
「お、おかえりなさい」
声が震えた。玄関で立ち尽くしているのは、眼鏡をかけた流夜くんだった。
「……咲桜?」
まるで幻でも見ているような顔だ。
「うん、おかえりなさい、流夜くん」
一週間ぶり――こんなに離れたのは、頼に怪しまれた時以来だ。
あのとき流夜くんは、解決後私を抱き寄せて触りまくった。今ならその気持ちもわかる気がした。
靴を脱ぐのもわずらわしいような動作で脱ぎ捨て、私の指の先に触れた。
流夜くんはいつも、存在を確かめるように指先から触れてくる。
じんわりあったかい、流夜くんの手に包まれた。
「咲桜だ……」
感極まったような響きの声と表情は、学校での神宮先生じゃない。過去でも今でもない。
私の隣にいてくれた『流夜くん』だ。
「ごめん、勝手に押しかけちゃって」
「いや……。咲桜、一発殴ってくれないか?」
「なんで⁉」
いきなり過激なことを言われて驚いた。なんで殴る。
「現実感がわかない。たぶん俺、咲桜に逢いた過ぎて幻見てる」
本当に幻だと思われているみたい……。